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読む力を養う [Zガンダムから観る]

劇場版Zガンダムという作品がある。
富野監督が近年になってリメイクした自分の作品である。

この作品、多くのユーザーから「イマイチ」という烙印を押されている。
その理由はいくつか推測できるが、
テレビ版Zが好きだった人の多くは
「主人公が精神を崩壊させる」
という衝撃的なラストに魅入られていた。

私も含めて。

カミーユという少年が最後に精神崩壊を起こすのは、
第1話から丁寧に張られた伏線があってのことである。
何も突拍子もなく精神が崩壊するわけではない。

キレやすい少年。
彼は理不尽な状況で両親を失い、戦場で常に生死の狭間で戦い、
愛する女性フォウや、自らを頼ってきたロザミィを失い、
頼るべき女性レコアに去られ、弱音を誰にも吐くこともできず、
傍らにいるファという少女にすら弱音を吐けなかった。

彼はその自分自身が感じる全てに対する閉塞感から、
宇宙でヘルメットのバイザーを開けるという狂気を得てしまう。

多くの人間を殺し、それでも自らが戦場で戦うために、
敵の生存理由すら否定しまうほど強い激情をもって、
少年は戦場を駆け抜けたのである。
自分の名前をバカにされたくらいで軍人に殴りかかってしまうような、
不安定な情緒をもったナイーブな少年がである。

そして彼を支配していた狂気が、
彼が自分の限界を超えて戦った時に一気に開放されたのだから、
彼の崩壊は必然だっただろう。

巧みな劇作や、キャラクターの内面描写をしない富野作品において、
そういったことを想像しながら見ることができなければ、
本当の意味での作中劇を理解することなど不可能である。

では、なぜ劇場版Zガンダムにおいて、
カミーユは精神破綻をしなかったのであろう。

重要なことは、彼は劇場版においてでも、
宇宙空間でバイザーを開けてしまうほどに狂い始めていたのである。

多くの人は劇場版をテレビ版の粗悪な総集編程度にしか思っていない。
あの長い劇作をたった3本の劇場作品にまとめるという作業が、
どれほど恐ろしいことかということは、このさい置いておこう。

大切なのは、劇場版Zガンダムという作品で、
描かれた主題は、テレビ版Zガンダムに対する
単なるアンチテーゼなどではないということだ。

カミーユという少年が、基本的な性格変更をせずに、
あの世界においてでも精神を崩壊させないで済ませれる、
という劇作を作り出しえたのは尋常ではないことである。

一人の人間が途方もない労力をかけて、
1作品を使い切って示したテーマ、
この場合、富野監督なりの「警鐘」と言ってもいいだろう。
その警鐘を、彼は同じ作品の世界観で、
「救い」に挿げ替えて見せたのだ。

これが如何に異常なことであるか分かるだろうか?
これまでの歴史の中でも、
同じ作家が、自分の作品をもってして、
過去の自分の作品のテーマを、少しの劇作の違いで、
違う性質のものに変化させるということなど、
例の少ないことなのである。

セリフひとつひとつの大切さ、
世界がもつ雰囲気の違い、キャラクター同士の少しのエゴの支えあい、
そういったものが「ほんの少し」あるだけで、
人というものは「救われる」のだ。
多くの人は日常からそれを感じているはずなのに、
作品としてそれを見せられた時に、腑に落ちない。

それは作品というものを単なるエンターテイメントとしてしか、
とらえていないからであろう。
人間が作っているのである。
作品には人間が映る、その人間を読もうとする作業すら放棄しておいて、
いや、できないのだろうが、
それで作品を評価しようというのだから甚だ愚かしい。

事実として、テレビ版と大筋の流れが一緒なのに、
カミーユの精神は破綻しなかったのである。
それが単純にカミーユというキャラクターに悲劇を与えたくなかった、
などというセンチメンタリズムから生まれた結果でないことなど、
富野監督という人間を少し知ればわかることである。

ただし。
この作品について一言だけ言わせていただくなら、
この作品が、富野監督がよく言う、
一般大衆に評価される為に作ったというのなら、
それは失敗であるとしか言えない。

なぜなら、このZガンダムという作品は、
やはり3本の映画に詰め込めるほど簡略化できる話ではないのだ。

しかし作家として、
新たなフィールドへと進むために作ったのなら、
彼はとんでもない領域に足を踏み入れていると言ってもいい。

いつか彼がガンダムというブランド以外で、
完全新作の劇場作品を作るときが来るなら、
私はそれを「待ち望んでいた」と言うことにしよう。

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