病星のロックスクイーズ -スケトラの章- 第1話
第1話
「存在の所在」
ッ フォッ
凄まじい風の吹き荒れる灰雲海を
一筋の閃光のようなものが駆け抜けた。
それは恐らく、たった今まで月面上にいた彼の閃光だ。
つい昨日まではレアメタルを採掘し、
それをアースボルトへ精製するだけの作業ロボットのコア装置だった。
「多機能型自立思考演算コア」名前を『スケトラ』という。
その彼が今!
「抵抗力中和剤」に包まれ、
月面から地表まで約1.5秒という光速に近い速度で迫っている!
ッゥジュォ ッ
空気と衝突した瞬間に発生するはずの膨大な衝撃を受け止め、
抵抗力中和剤は聞こえない程度の音をあげて霧散する。
「抵抗力中和剤」とはその名の通り。
物質同士の接触によって生じる相対的な衝撃を中和させるものだ。
ほぼありとあらゆる抵抗や接触によって起こる衝撃を中和する。
だが中和剤をこの世界に保持しておける最大持続時間は決まっており、
それは円周率と極めて近似値と言えるだろうという結果が出ている。
3.14159 26535 89793 23846 26433..秒
なぜ中和剤の保持時間と円周率の値が近似値になるのかは分かっていない。
彼らにとってはそれは気がついたらもう既にあったもので。
模倣し復元し複製する設備や能力はあっても、
それを作り出した大元となる時代の情報はこの世界にはなかった。
そういうことだろう。
まず抵抗という現象をどのように解釈すれば、
「物質同士の衝突衝撃」を「物質を媒介」にして「相対的に中和させあい」
「質量の持つ力」を「双極的に違う方向」に「逃がし合って相殺させる」という。
訳のわからない物質を作り出せると言うのだろうか?
「存在」とは既に、それ自体が「抵抗的」なものであって、
「停止への抵抗力」のようなものが生命を保っているとも言える。
言ってしまえば不老不死の秘法とは、
存在本来が持つ「停止への抵抗力」を
活性化させるスイッチを入れる事に近い。
そして 存在 という 本来は抵抗的であるものの外に、
あらゆる抵抗を中和するもの を塗りつけて使用する。
世界の抵抗を受けていない状態の時、
「ソレ」は世界にとって「存在」していると言えるのか?
ゆえに「抵抗力中和剤」は「矛盾の盾」とも呼ばれている。
スケトラは怯えていた。
矛盾の盾の中で。
想像力の根源で。
存在という矛盾に。
自分という存在に。
想像という両義性に。
―ィラ・・・もぅ ダ …っ!―
存在が深遠に消え去るような恐怖。
何もかも冷たい夜にひきずられ。
ここでは全てが停止へと向かう。
声は虚無に吸い込まれてしまう。
この中は停止している。
そして、もう二度と・・・
ドボォオオオフォッ ッ!!!!!
目の覚めるような風が吹いている。
スケトラは演算コアであるにも関わらず、
先程の瞬間の中で自分という矮小な実感を初めて自覚した。
素直に。
空虚を埋めるように動き回り、
掻き回してくれる風が、音が、嬉しかった。
その撫でてくれるような感触だけが
確かなものと錯覚してしまいそうにさせた。
最終接触物質である中和剤自体への衝撃は
完全に消し去ることはできない。
その為なのか抵抗力中和剤は
物質自身がその効力を失う寸前に、
相殺しきれなかったエネルギー残滓を熱として放出する。
ジュォッ ッウッ
一瞬、煙が立ち昇る。
だが、それだけ―
スケトラが命を振り絞るように叫んだ声など、
たった今、ここで消え去ろうとしていた存在の可能性など。
吹き荒れる凄まじい風が、
たちまちのうちに何もかもを掻き消してしまっていた。
「存在の所在」
ッ フォッ
凄まじい風の吹き荒れる灰雲海を
一筋の閃光のようなものが駆け抜けた。
それは恐らく、たった今まで月面上にいた彼の閃光だ。
つい昨日まではレアメタルを採掘し、
それをアースボルトへ精製するだけの作業ロボットのコア装置だった。
「多機能型自立思考演算コア」名前を『スケトラ』という。
その彼が今!
「抵抗力中和剤」に包まれ、
月面から地表まで約1.5秒という光速に近い速度で迫っている!
ッゥジュォ ッ
空気と衝突した瞬間に発生するはずの膨大な衝撃を受け止め、
抵抗力中和剤は聞こえない程度の音をあげて霧散する。
「抵抗力中和剤」とはその名の通り。
物質同士の接触によって生じる相対的な衝撃を中和させるものだ。
ほぼありとあらゆる抵抗や接触によって起こる衝撃を中和する。
だが中和剤をこの世界に保持しておける最大持続時間は決まっており、
それは円周率と極めて近似値と言えるだろうという結果が出ている。
3.14159 26535 89793 23846 26433..秒
なぜ中和剤の保持時間と円周率の値が近似値になるのかは分かっていない。
彼らにとってはそれは気がついたらもう既にあったもので。
模倣し復元し複製する設備や能力はあっても、
それを作り出した大元となる時代の情報はこの世界にはなかった。
そういうことだろう。
まず抵抗という現象をどのように解釈すれば、
「物質同士の衝突衝撃」を「物質を媒介」にして「相対的に中和させあい」
「質量の持つ力」を「双極的に違う方向」に「逃がし合って相殺させる」という。
訳のわからない物質を作り出せると言うのだろうか?
「存在」とは既に、それ自体が「抵抗的」なものであって、
「停止への抵抗力」のようなものが生命を保っているとも言える。
言ってしまえば不老不死の秘法とは、
存在本来が持つ「停止への抵抗力」を
活性化させるスイッチを入れる事に近い。
そして 存在 という 本来は抵抗的であるものの外に、
あらゆる抵抗を中和するもの を塗りつけて使用する。
世界の抵抗を受けていない状態の時、
「ソレ」は世界にとって「存在」していると言えるのか?
ゆえに「抵抗力中和剤」は「矛盾の盾」とも呼ばれている。
スケトラは怯えていた。
矛盾の盾の中で。
想像力の根源で。
存在という矛盾に。
自分という存在に。
想像という両義性に。
―ィラ・・・もぅ ダ …っ!―
存在が深遠に消え去るような恐怖。
何もかも冷たい夜にひきずられ。
ここでは全てが停止へと向かう。
声は虚無に吸い込まれてしまう。
この中は停止している。
そして、もう二度と・・・
ドボォオオオフォッ ッ!!!!!
目の覚めるような風が吹いている。
スケトラは演算コアであるにも関わらず、
先程の瞬間の中で自分という矮小な実感を初めて自覚した。
素直に。
空虚を埋めるように動き回り、
掻き回してくれる風が、音が、嬉しかった。
その撫でてくれるような感触だけが
確かなものと錯覚してしまいそうにさせた。
最終接触物質である中和剤自体への衝撃は
完全に消し去ることはできない。
その為なのか抵抗力中和剤は
物質自身がその効力を失う寸前に、
相殺しきれなかったエネルギー残滓を熱として放出する。
ジュォッ ッウッ
一瞬、煙が立ち昇る。
だが、それだけ―
スケトラが命を振り絞るように叫んだ声など、
たった今、ここで消え去ろうとしていた存在の可能性など。
吹き荒れる凄まじい風が、
たちまちのうちに何もかもを掻き消してしまっていた。
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